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浦和地方裁判所 昭和60年(行ウ)10号 判決

埼玉県川口市西青木二丁目一五番四一号

原告

海老原邦延

右訴訟代理人弁護士

城口順二

埼玉県川口市青木二丁目二番一七号

被告

川口税務署長

朝比奈和三

右被告訴訟代理人弁護士

山内善明

右被告指定代理人

石黒邦夫

吉田克巳

玉田真一

中澤勇七

渡辺康雄

小笠原浩一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年一一月一六日付でなした原告の昭和五六年度分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五七年三月一五日、被告に対し、昭和五六年度の所得税を別表の確定申告欄記載のとおり青色申告書により確定申告したところ、被告は、同五八年一一月一六日、別表の更正及び加算税賦課決定欄記載のとおり右年度分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)を行い、同月一九日、その旨を原告に通知した。

2  原告は、昭和五九年一月一四日、本件処分について被告に対し異議の申立をしたが、被告は、同年四月一三日、原告の右異議申立を棄却した。そこで、原告は、同年五月八日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、同六〇年二月二七日、原告の右審査請求を棄却する裁決をし、同月一四日、その旨を原告に通知した。

3  しかし、被告のした本件処分は、所得税法五八条等の法律の適用を誤り、交換物件の評価を誤つた結果なされたものであつて、違法である。

4  よつて、原告は、本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1および2の各事実は認める。

2  同3の主張は争う。

三  抗弁

1  本件更正処分の適法性

原告の昭和五六年度分の所得金額及びその算定根拠は、次のとおりである。

一 総合課税の対象となる総所得金額

△(赤字。以下同じ。)五三六万九二三四円

(本件更正処分による総所得金額も右と同額)

原告が、昭和五七年三月一五日、被告に提出した同五六年度分所得税の確定申告書(青色申告書)に記載された不動産所得金額△七八四万七二三四円と給与所得金額二四七万八〇〇〇円との合計額である。

二 分離課税の対象となる長期譲渡所得金額

一億〇九六七万五〇〇〇円

(本件更正処分による長期譲渡所得金額は七八二八万一八一八円)

譲渡収入金額から所得費及び特別控除額を減じたものであつて、その各金額は、以下のようにそれぞれ算出した。

(1) 譲渡収入金額 一億一六五〇万円

(本件更正処分における金額は八三四五万四五四五円)

右金額は、原告が、昭和五六年五月始め、訴外滝沢要(以下「要」という。)との間で、原告所有の別紙第一物件目録記載の土地(以下「交換譲渡土地」という。)と、要所有の別紙第二物件目録記載の各土地(以下「交換取得土地」という。)とを交換(以下「本件土地交換」という。)することによつて取得した交換取得土地の価額相当額である。

本件土地交換は、交換差金等の授受のない等価の交換として行われているので、交換取得土地の価額は交換譲渡土地の価額と等価とみることができるところ、交換譲渡土地は、本件土地交換直後の昭和五六年五月八日、要から訴外株式会社初穂(以下「初穂」という。)に一億一六五〇万円で売却されているので、本件土地交換による原告の譲渡収入金額は一億一六五〇万円と算定した。

(2) 取得額 五八二万五〇〇〇円

(本件更正処分における金額は四一七万二七二七円)

原告の交換譲渡土地の譲渡は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条に該当するので、同法三一条の四に基づき、(1)の譲渡収入金額に法定の一〇〇分の五を乗じて算出した。

(3) 特別控除額 一〇〇万円 (本件更正処分における金額も右と同額)

措置法三一条二項(昭和五七年法律第八号による改正前のもの)に基づく特別控除額である。

三 以上のように、被告が本件更正処分において認定した総合課税による総所得金額(△五三六万九二三四円)及び長期譲渡所得金額(七八二八万一八一八円)は、被告が本訴において主張する各金額と同額又はその範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

2  所得税法五八条の不適用

一 固定資産交換の場合の譲渡所得の特例である所得税法五八条が適用されるためには、交換取得資産は、交換の相手方が一年以上所有していたものであつて、かつその交換のために取得したものではないことが要件とされている。

二 しかるに、本件土地交換に関する以下の事実によれば、本件交換取得土地は、交換の相手方である要が、本件交換のために取得したものであり、しかも同人が取得後所有していたのは一年未満であるから、本件土地交換について同条の適用はない。

(1) 要は昭和四四年ころ同人の実弟である訴外滝沢政治(以下「政治」という。)に自己の所有地(埼玉県川口市西青木二丁目六五九番地所在、田(現況宅地)、八一九・八三平方メートル)を賃貸し、政治は、同四五年一月五日同土地の中央部北側に木造瓦葺平屋建居宅(床面積九七・五四平方メートル)を、同年ころその北東部に木造スレート葺平屋建物置(床面積四七・九二平方メートル)及び南東部に木造亜鉛葺平屋建作業所(床面積四一・三一平方メートル)をそれぞれ新築し、同五五年八月ころまで妻子と共に右居宅に居住しながら釣竿の製造販売業を営んでいた。また、同五三年ころ、政治は、同土地の南西部に木造亜鉛葺平屋建教室(床面積二九・七四平方メートル)を新築し、同年五五年五月ころまで同人の妻が経営する学習塾に使用させていた。

(2) 訴外株式会社あづま商事(以下「あづま商事」という。)は、昭和五五年七月二六日、要から右土地を一億三三六〇万円で、政治から右家屋等及び右土地上の借地権を四〇〇〇万円で買い受けた後、同年一一月ころ、分譲するため同土地を分筆した(右同所六五九番一ないし一八。分筆後の面積合計八一七・〇四平方メートル。以下「本件分譲地」という。)

(3) 昭和五五年ころ初穂が、原告に対し、マンシヨン建設用地とするため交換譲渡土地の買い受けを申し出たところ、原告は税負担を伴う譲渡に難色を示した。

そこで初穂は、原告に税負担をかけないようにするため、昭和五六年一月ころ、あづま商事に対し、本件分譲地をいつたん要に戻し、原告と要との間で交換譲渡土地と本件分譲地とを交換させた上、要から交換譲渡土地を買い受けたい旨の斡旋を申し入れたところ、あづま商事はこれを了承し、要もこの案を受け入れた。

(4) この案に基づいて、昭和五六年一月一〇日、あづま商事は、要との間で、本件分譲地のうち、あづま商事が訴外濱浦大吉に売却した同所六五九番二及び同番一三の各土地(合計八九・七五平方メートル)を除く一五筆の土地(合計七二七・二九平方メートル)につき前記売買を解約する旨の合意をすると共に、要から、あづま商事がさきに政治に支払つた前記借地権の代金四〇〇〇万円及び同社が行つた本件分譲地に対する造成費用等八三九万七一四一円の各支払を受けた。

(5) その後、要は、昭和五六年五月初め、原告との間で、あづま商事から返還を受けた本件分譲地のうち同所六五九番三、同番四、同番一一及び同番一二の各土地(合計一七二・五〇平方メートル)を除いた土地(交換取得土地)と原告所有の交換譲渡土地とを交換し、さらに同年五月八日、交換譲渡土地を一億一六五〇万円で初穂に売り渡した。

三 以上の本件土地交換の経緯からすれば、交換取得土地は、要が昭和五五年七月二六日にあづま商事に売却したものを、同五六年一月一〇日、右売買契約の一部を解約して取り戻したものであるが、この交換取得土地の再取得は、明らかに本件土地交換のためになされたものであり、また、同人が交換取得土地を所有していた期間は、右再取得から昭和五六年五月初めまでの一年未満の期間にすぎないから、本件土地交換には所得税法五八条の適用はない。

四 なお、売買契約の一部解約による交換取得土地の取戻しが同土地のあらたな取得と認められない場合(すなわち、要が、昭和五五年七月二六日以降も同土地を所有していたと認められる場合)でも、次の理由から本件土地交換には所得税法五八条の適用はない。

(1) 前記のように、同条に定める交換取得資産は、交換の相手方が一年以上所有していた固定資産であることを要するところ、本件の場合、交換取得土地には昭和五五年七月二六日まで政治のための借地権が存していたから、同土地のうち右借地権相当部分は、要の所要期間が一年未満となるため同条一項所定の交換取得資産に該当しない。

したがつて、交換取得資産の価額は、交換取得土地の価額から右借地相当部分の価額を控除した価額(交換取得土地の底地部分の価額)となり、また、本件土地交換は交換差金等の授受のない等価の交換として行われているので、交換取得土地の価額は交換譲渡土地の価額と等価とみることができることから、交換譲渡資産の価額と交換取得資産の価額との差額は右借地権相当部分の価額に相当することになる。

(2) そこで、借地権相当部分の価額について検討すると、前記のとおり要は本件分譲地の借地権をあづま商事から四〇〇〇万円で取得しているので、交換取得土地に占める借地権相当部分の価額は二七一六万〇九七一円と算出される(四〇〇〇万円÷本件分譲地の面積八一七・〇四平方メートル×交換取得土地の面積五五四・七九平方メートル)。他方、交換譲渡土地は一億一六五〇万円で売却されているので、本件土地交換時における同土地の価額もこれと同額とするのが合理的である。

(3) そうすると、右借地権相当部分の価額は、交換譲渡土地の価額の二三パーセントに当たり、所得税法五八条二項所定の一〇〇分の二〇という割合を超えることになる(同条二項)から、結局本件土地交換には所得税法五八条の適用はないというべきである。

3  本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性

被告は、本件更正処分によつて納付すべき所得税金額一六八三万八〇〇〇円を基礎として、これに国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下同じ。)六五条一項所定の割合一〇〇分の五を乗じて過少申告加算税八四万一九〇〇円を算出し、賦課決定したものであるから、同賦課決定処分は適法である。

四 抗弁に対する認否

1  抗弁1について

一 抗弁1一の主張は認める

二 同二(1)冒頭の主張事実のうち、原告が昭和五六年五月初め要との間で交換譲渡土地と交換取得土地とを交換したことは認めるが、同二(1)のその余の主張は争う。

交換譲渡土地の価額を交換取得土地の価額と等価とする考え方は、交換差額が常に支払われる実情を無視したものであり、譲渡収入金額を一億一六五〇万円と認定した経緯は独断的である。本件土地交換の場合、交換譲渡土地を含まないとマンシヨン建設に支障が生じるという特段の事情があつたのであるから、交換取得土地の価額を交換譲渡土地の売却価額と一致させることは誤りである。

同(2)及び(3)の算出方法は認める。

三 同三の主張は争う。

2  抗弁2について

一 抗弁2一は認める。

二(1) 同2二の冒頭の主張は争う。

(2) 同二(1)のうち、要が政治に対し、その所有地を賃貸したことは否認する。要と政治との間には単に使用貸借関係があつたにすぎず、この関係も昭和五五年ころにはその目的を達して終了している。その余の事実は不知。

(3) 同(2)のうち、要とあづま商事との間で、要の所有地につき売買契約が締結されたことは否認し、その余の事実は不知。乙第五号証の売買契約書は、要はあづま商事に対し単に右土地を造成・分譲することのみを依頼したにすぎないのに、あづま商事が依頼の趣旨を逸脱して作成したものであつて、要とあづま商事との間の売買契約を証する証拠となるものではない。また、仮に要とあづま商事との間に売買契約があつたとしても、右売買契約は、要とあづま商事との間で真実所有権を移転する意思なくなされた仮装の契約であつて、これによつて本件土地の所有権が要からあづま商事に移転するものではない。

(4) 同(3)のうち、初穂が、昭和五五年ころ、原告に対しマンシヨン建設用地とするため交換譲渡土地の買い受けを申し出たこと、原告がこれを断つたこと、及び初穂が、原告と要との間で交換譲渡土地と交換取得土地とを交換させた上、交換譲渡土地を要から取得することとしたことは認め、その余は不知。

(5) 同(4)の事実は不知。

(6) 同(5)のうち、原告が要との間で、原告所有の交換譲渡土地と要の交換取得土地とを交換したことは認めるが、契約日及び交換譲渡土地の内容は否認する。本件土地交換の日は昭和五六年六月二六日ころである。また、交換譲渡土地は分筆され、川口市西青木二丁目六六七番一及び二となつていた。

その余の事実は不知。

三 同三の主張は争う。要とあづま商事との間に売買契約があつたとしても、右契約は合意解除により契約当初から存在しなかつたことになるから、要はこれによつて交換取得土地を所得税法五八条一項にいわゆる取得したものではないというべきである。

四 同四の主張は争う。

被告は、要と政治との間に賃貸借契約があつたとし、その価額を四〇〇〇万円と認定しているが、これは、要が弟である政治の生活資金として与えたものか、あるいは同人との間の使用貸借関係を解消するための明渡料とみるべきものである。

仮に、要と政治との間に賃貸借契約があつたとしても、右金額には政治所有の建物の価額も含まれているもんと考えるべきであるから、借地権の価額を四〇〇〇万円と算出することは誤りである。

3  抗弁3は争う。

五 再抗弁(抗弁3に対し)

原告は、要の所有地(埼玉県川口市西青木二丁目六五九番、宅地、八一九・八三平方メートル)上に政治のための借地権が存在していたことを知らなかつたのであるから、所有金額を過少に申告したことにつき、国税通則法六五条二項にいう「正当な理由」がある。

六 再抗弁に対する認否及び被告の反論

再抗弁事実は否認する。

国税通則法六五条二項所定の「正当な理由がある場合」とは、付帯税たる過少申告加算税が、租税申告の適正を確保し、租税債権確定のために納税者に対して賦課されるという性質を有することからすれば、税法の解釈に関し申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告し又は更正を受けた場合、あるいは災害又は盗難等に関し申告当時損失とすることが相当とされたものが、その後予期しなかつた保険金等の支払を受けあるいは盗難品の返還を受けたため修正申告し又は更正を受けた場合等、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意・過失に基づかずして当該申告額が過少になつた場合のように、当該申告が真にやむをえない理由によるものであり、かかる納税者に加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合を指称するものであつて、税法の不知若しくは誤解に基づく場合はこれに当たらないというべきである。

したがつて、原告が交換取得土地の状況を認識していなかつたことは、同法六五条二項の「正当な理由がある場合」に該当しない。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件処分)及び同2(異議申立及び審査請求)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1一(総所得金額)は当事者間に争いがない。

三  同二のうち、原告が昭和五六年五月初め、要との間で交換譲渡土地と交換取得土地とを交換したことは、当事者間に争いがない。

四  本件土地交換が、固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例に関する所得税法五八条の適用されるべき場合であるかどうかについて検討するに、所得税法五八条によれば、同法三三条(譲渡所得)の特例として同法五八条による固定資産の交換につき課税の繰延が認められるためには、取得資産については、交換の相手方が一年以上有していた固定資産(同条一項に掲げられたもの)であること、及びそれが交換のために取得したと認められないものであることが必要とされ、したがつて、取得資産について交換の相手方の有していた期間が一年未満である場合、又はそれが交換のために取得したと認められる場合には、同条の適用はないものといわなければならない。

そこで、本件土地交換の経緯について検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証、乙第二号証の二ないし四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証、証人松本延美の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証、並びに証人松本延美及び同滝沢要の各証言によれば、要は、昭和四四年ころ、実弟である政治の求めにより、当時訴外羽鳥に貸して耕作させていた自己所有地(埼玉県川口市西青木二丁目六五九番、田、八一九・八三平方メートル)を、同人に対する離作料と同土地の埋立費用を政治に負担させ、地目を宅地に変更した上で、政治に貸し渡したこと、要はこの貸借について地代に関する定めをしなかつたが、政治は、そののち年一回、同土地の固定資産税相当額を持参し要に渡していたこと、政治は、同四五年一月、同土地の中央部北側に木造瓦葺平屋建居宅(床面積九七・五四平方メートル)を、同じころ、同土地の北東部に木造スレート葺平屋建物置(床面積四七・九二平方メートル)及び同土地の南東部に木造亜鉛葺平屋建作業所(床面積四一・三一平方メートル)をそれぞれ新築し、妻子とともに居住しながら釣竿の製造販売業を営んでいたこと、さらに同五三年ころには、同土地の南西部に木造亜鉛葺平屋建教室(床面積二九・七四平方メートル)を建て、次男大次郎の妻が経営する算数塾に使用させていたことの各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  次に、前掲乙第四号証、弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立が真正と認められる甲第九、第一〇号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証、成立に争いのない甲第一九ないし第二三号証並びに証人松本延美及び同滝沢要の各証言によれば、昭和五五年初めころ、要は、他地への移転を計画した政治から前記土地上に借地権を有することを前提としてその買取りを求められ、従前から不動産取引を依頼していたあづま商事の代表者松本延美に相談したこと、相談を受けた松本は、あづま商事が同土地を買い取つて造成・分譲することを前提として、要に対し、政治は四〇〇〇万円位で同土地の借地権を買い取つてほしいと言つているが、その程度であれば有利である等と述べて、同土地をあづま商事に売却するように勧めたこと、その結果、要は、同土地をあづま商事に売ることとし、同年七月二六日、同社との間で同土地を代金一億三三六〇万円で売渡す旨の契約を締結し、あづま商事は、同日、政治との間で借地権付建物売買契約の形式により前記賃借権を代金四〇〇〇万円で買い取る旨の契約を締結したこと、その後、あづま商事は、同土地の引渡を受け、これを造成するため同年一〇月ころ同土地上の建物を取り壊し、造成工事をした上で同土地を分筆(川口市西青木二丁目六五九番一ないし一八。面積合計八一九・八三平方メートル)したこと、その後、要は、右土地売買について譲渡所得税を納付していることの各事実が認められる。

証人松本延美及び同滝沢要の証言中、右認定に反する供述部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、原告は、乙第五号証の要とあづま商事との間の売買契約書は、要があづま商事に対し右土地の造成・分譲を依頼したにすぎないのに、同社が依頼の趣旨を逸脱して作成したものであるとか、要とあづま商事との間の前記売買契約は、真実は所有権を移転する意思なくしてなした仮装のものであると主張し、証人滝沢要の証言中には、右主張に副う趣旨の供述部分があるが、前掲各証拠に照らして採用し難い。

3一 初穂が、昭和五五年ころ、原告に対しマンシヨン建設用地とするため交換譲渡土地の買受けを申し出たが、原告はこれを拒絶したこと、初穂は、本件分譲地と交換譲渡土地とを交換させた上、交換譲渡土地の取得者から同土地を取得することとしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二 前掲甲第一九号証、甲第二二、第二三号証、成立に争いのない乙第九号証、証人松本延美の証言により真正に成立したものと認められる乙第六、第七号証、乙第八号証の一、二及び乙第一〇号証の一、二、証人松本延美及び同滝沢要の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、初穂は、交換譲渡土地に隣接した土地を所有しており、交換譲渡土地を含めた上でマンシヨンの建設を計画していたことから、昭和五五年一〇月ころより原告に対し交換譲渡土地の買い受けを申し出ていたが、原告は終始同土地は売らないという態度を取つていたこと、右計画の早期実現を迫られていた初穂は、同五六年初めに至り、他の物件を探すのでこれと交換してほしい旨を申し出るようになつたこと、これに対し、原告は、同じ面積の土地を交換するのであれば税金を負担することはないものと考え、土地交換に応ずることとしたこと、そこで初穂は、同年五月、あづま商事を訪れ、松本に対し本件分譲地を原告所有の交換譲渡土地と交換した後、売買の形で交換譲渡土地を取得したいと申し入れたこと、松本は、本件分譲地のうち一区画(川口市西青木二丁目六五九番二及び同番一三。面積合計八九・七五平方メートル)が訴外濱浦大吉に売却できたものの、他の区画が売却できないでいたことから、初穂の申入れに従つた方が得策と考え、要にも相談した上で右申入れを受けることとしたこと、要と原告との間で土地を交換する形式を取る必要上、要とあづま商事は、要が同社に売却した前記土地のうち濱浦に売却した右区画を除いた部分について前記売買契約を合意解除し、同年一月一〇日付で解約合意書を作成したこと、そのころ、松本が事務員に指示して、この合意に基づく請求書及び領収書(政治に支払つた代金四〇〇〇万円及び本件分譲地に対する造成費等八三九万七一四一円の清算についてのもの)を作らせ、その日付も初穂の指示により同年一月一〇日付としたこと、要はその資金管理を松本に委せていたことから、この清算については松本限りで帳簿上の会計処理がなされ、実際に現金の授受は行われていないこと、そして同年五月初め、原告と要との間で、原告所有の交換譲渡土地(川口市西青木二丁目六六七番、宅地、四五九・五〇平方メートル。土地交換契約書(乙第九号証)上の面積四五九・〇平方メートル)と要所有の交換取得土地(同所二丁目六五九番五ないし一〇、宅地。同番一及び一四ないし一八、道路。面積合計五五六・五四平方メートル。同契約書上の面積合計五五五・七一平方メートル)とを交換する旨の契約が締結されたこと(原告と要との間で交換契約がなされたことは、当事者間に争いがない。)、その際用いられた土地交換契約書の条項は初穂が作成したものであり、同社の希望により契約締結日が同年一月二三日付とされたこと、本件土地交換に関する交渉は、初穂が中心となつて、原告及びあづま商事との間で行つていたため、原告と要、松本は右交換契約締結のときが初対面であつたこと、その後、交換譲渡土地は川口市西青木二丁目六六七番一及び同番二に分筆された上、同年五月八日、要から初穂へ代金一億一六五〇万円で売り渡されたこと、あづま商事は、初穂の求めによりこの売買契約の仲介人とされたことの各事実が認められる。

証人松本延美及び同滝沢要の各証言中、以上の認定に反する供述部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  以上の事実を総合すれば、交換取得土地は、要が昭和五五年七月二六日にあづま商事に売却したものを、同五六年一月一〇日、右売買契約の一部を解約するという方法によつて取り戻したものであり、これは交換取得土地を本件土地交換のために取得したものであると認めるのが相当である。

これに対して原告は、要とあづま商事との間の前記売買契約は、その後の合意解除により契約当初から存在しなかつたことにされるから、要はこれによつて交換取得土地を所得税法五八条一項にいわゆる取得したものではないと主張する。しかし、前記認定事実によれば、右合意解除は、要と原告との間の本件土地交換の手筈を整えるために、要が前記のとおりいつたん譲渡した交換取得土地を譲渡先のあづま商事から取り戻すための手段としてなされたものであることは明瞭であるから、要はこれによつて交換取得土地を所得税法五八条一項にいわゆる「(交換のために)取得」したものというべきであつてこの判断は、合意解除により当事者間において私法上さきになされた契約の効力がその当初に遡つて失われることになるかどうかによつて、消長を来たすべきものではないというべきである。この点に関する原告の主張は到底採用することができない。

したがつて、本件土地交換は、これについて所得税法五八条が適用されるべき場合には当らないというべきである。

五  譲渡所得金額の算定

1  譲渡収入金額

交換譲渡土地の面積は四五九・五〇平方メートル(土地交換契約書上は四五九・〇平方メートル)であり、交換取得土地の面積は合計五五六・五四平方メートル(土地交換契約書上は合計五五五・七一平方メートル)であること、本件土地交換後、交換譲渡土地が要から初穂へ代金一億一六五〇万円で売り渡されたことは前記判示のとおりであり、また、成立に争いのない甲第一八号証、前掲甲第九、第一〇号証及び乙第九号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告所有の交換譲渡土地は、交換取得土地とは道路を隔てた西側対面にあり、地価の評価及び行政上の規制について特段の差異はないこと、当初、交換取得土地の対象は川口市西青木二丁目六五九番六ないし同番一〇の各土地であつたが、原告の要求により、さらに同番五の土地が加えられたこと、本件土地交換については他に金銭の授受はなされなかつたことがそれぞれ認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

以上の事実からすれば、譲渡所得金額上交換取得土地の価額を交換譲渡土地の売買代金額と等価とみて、これを一億一六五〇万円と算定するのが相当である。

2  取得費

措置法三一条、同条の四に基づき、取得費が五八二万五〇〇〇円と算出されることについては、当事者間に争いがない。

3  特別控除額

措置法三一条二項(昭和五七年法律第八号による改正前のもの)に基づき、特別控除額が一〇〇万円と算出されることについては、当事者間に争いがない。

4  したがつて、本件交換による譲渡所得金額は、右譲渡収入金額から取得費及び特別控除額を減じた結果、一億〇九六七万五〇〇〇円と算出され、右譲渡所得が所得税法三三条及び措置法三一条により分離課税の対象となる長期譲渡所得に当たることは明らかである。

六  以上により、原告の総合課税による総所得金額は△五三六万九二三四円、分離長期譲渡所得金額額は一億〇九六七万五〇〇〇円であり、本件更正処分において認定された各金額はこれと同額又はその範囲内であるから、本件更正処分は適法というべきである。

七  再抗弁(過少申告の正当理由)について

原告は、要の前記所有地上に政治のため借地権が存在していたとを知らなかつたから、所得金額を過少に申告したことについて、国税通則法六五条二項の「正当な理由」がある旨主張するが、同項の「正当な理由」とは、所得金額の過少申告が真にやむをえない理由に基づいており、納税者に加算税を賦課することが不当若しくは誤解に基づく場合はこれに当たらないと解するのが相当であるところ、本件土地交換に関する経緯は前記認定のとおりであり、所得金額を過少申告したことについて原告に正当な理由があると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被告により本件過少申告加算税賦課決定処分に違法はない。

八  結論

以上によれば、その余の点については判断するまでもなく、本件処分はいずれも適法であつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないというべきであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 熱田康明 裁判官 石川恭司)

別表

〈省略〉

第一物件目録

埼玉県川口市西青木二丁目六六七番

宅地 四五九・五〇平方メートル

第二物件目録

一 埼玉県川口市青木二丁目六五九番一

公衆用道路 一六・〇〇平方メートル

二 同番五   宅地    七〇・二五平方メートル

三 同番六   宅地    七〇・二九平方メートル

四 同番七   宅地    七〇・二九平方メートル

五 同番八   宅地    七〇・二一平方メートル

六 同番九   宅地    七〇・二一平方メートル

七 同番一〇  宅地    九九・五四平方メートル

八 同番一四  公衆用道路 一六・〇〇平方メートル

九 同番一五  公衆用道路 一六・〇〇平方メートル

一〇 同番一六 公衆用道路 一六・〇〇平方メートル

一一 同番一七 公衆用道路 二三・〇〇平方メートル

一二 同番一八 公衆用道路 一七・〇〇平方メートル

合計    五五四・七九平方メートル

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